「教えてよ、ピアノ。毎回5分とか10分くらいでいいから」
「え?」
「調律した礼ってことで」
 
予期していなかった言葉に、私は開いた口がふさがらない。

「何曜日来れるんだったっけ? ウサギ。来る日と来ない日があるよね?」
「水曜は英会話で金曜はピアノで土曜は塾だから、月火木」
「ハハ。期待を裏切らないラインナップ」
 
相良くんが吹き出した。
彼はよく笑う。

「月火木ね。てことはとりあえず明後日木曜日。じゃ、そういうことで。おつかれ」
「は?」
 
また、彼は風のように帰っていった。
実際風が吹いて、私の前髪を揺らす。
弓道部の人たちだろうか、生徒の声も風に乗ってわずかに聞こえた。

「なにそれ」
 
譜面台の楽譜が風でひらひらと落ちた。