園宮くんは短くそう返して、話しながら少し傾いた配布冊子の束を、私のほうから3分の1ほど自分のほうへ移した。
園宮くんのほうがもともと多く持ってくれていたのに。

「……ありがと」
「べつに」
 
そっけないけれど、こういうさりげなく優しいところも、彼がモテる理由のひとつだ。

「大事なコンクールなの?」
「うん、夏休み中に予選があって通過したから、そのコンクールが本選なの」
「すごいね。勉強もピアノも」
「園宮くんだって、弓道部の次期部長って聞いたけど」
「そうだけど……ピアノってなんか違う気がする。練習量もセンスも」
「そんなことないよ。私は弓道もすごいと思う」
 
今日は、いつもよりいっぱい園宮くんと話ができている。
松野先生に感謝だ。

園宮くんは、無駄に微笑んだりはしないものの、「頑張ってね」と言ってくれた。
私も浮かれているのを気取られないように「ありがとう」と普通の口調で返した。