「………………」
 
私は、少し熱く語ってしまったことを恥じた。
無意味だってわかっていたのに、こんな話。

事実、彼は話の流れなんてぶった切って、
「あっちに残してきた女の子から」
と、聞いてもいないのにひとり言のように説明してくる。

いや、興味ないから、こっちこそ。
 
私は呆れた顔で相良くんの寝癖頭を見た後で、ピアノに向き直った。
後れ髪に気付いて結び直し、ふう、と息を吐いてから、ピアノの練習を再開する。
 
そうだろう、そうだろう。
私の話なんかよりも、遠距離恋愛中の彼女のほうが大事だ。

私だって、もし好きな人から連絡がきたら、そっちのほうを優先するはず。