私は表情もなく後ろでひとつに括った髪の毛先を触る。
たしかに短さはウサギの尻尾同等で、マリモに毛が生えたような不格好さだけれども。

「ピアノ弾くときだけだよ。邪魔なの」
「いや、自由だと思うけどさ、いや、ほら」
 
ツボにハマったのだろうか、「宇崎、ウサギ」と繰り返しては笑っている。
表情も言動も幼すぎて、まるで小学生だ。

「練習するから」
 
アホらしくなって、私は顔を戻して再度ショパンを弾き始めた。

ピアノの音が彼の笑い声をかき消すと、余韻だろうか、なぜか私まで吹き出しそうになる。
おかげで指が絡まってしまった。
 
相良くん……か。
 
おかしな人だなぁと思いながら、演奏を立て直した私は、弾きやすくなったピアノの音に身を委ねる。
もしかしたら、家のピアノよりも、ピアノ教室のピアノよりも、弾き心地がいいかもしれない。