生唾を飲み込んだ私は、空気を思い切り吸い込んで、
「だって、置いてきた彼女がいるんでしょ? 遠恋してるくせに、こっちで私に手を出すとかありえない。信じられない。私はそういうの、違うと思う」
と、ひと息に訴えた。
 
眉間にしわを寄せた相良くんが、至近距離で腕の中の私をじっと見下ろす。

そして、しばらくその沈黙が続いた後で、
「彼女?」
と聞かれた。

「……って、誰?」
「だから、前の学校の……えっと……久世さん?」
「久世は俺だけど」
「へ?」
 
まったく噛み合わない会話に、私は彼の腕の中で正座をする。
そして、私がそう思い至った経緯を説明する。