「でも、ひたむきで、他人からの期待を裏切らないために着ぐるみ着て頑張ってて、それを努力だって自覚なしに続けてて。やっぱり、昔の自分を見てるようで、直視したくないんだけど目が離せなくて。ピアノから離れたいって思ってたのにほっとけなかった。気付いたら、やっぱりピアノのところに戻ってきてた」
「……うん」
「結局、ウサギじゃなくて、自分自身に自覚させたかったのかもしれない。ピアノを弾く理由を」
 
ピアノを弾く……理由。
 
相良くんにしかわからない心の境地。
私はその場所に並びたくて、同じ景色をちょっとだけでも見たくて、
「なんで……弾くの?」
と、かすれた声で聞いた。

「なんで頑張れるの?」

答えない彼に質問を続けると、
「頑張ってないよ、今はもう」
と、ハハという笑い声と一緒に返される。