「あ……」
 
なにか、話題を。
そう思った私は、
「ま、また、ピアニスト、目指すの?」
と、なにかを誤魔化すように声をかけた。

「相良くんなら、大丈夫だと思う。だって、こんな短期間でここまで左手の指、動かせられるようになったんだし、このまま続けたら、きっとすぐ……」
「目指さないよ」
 
窓の外の弓道場から、風がこちら向きだからだろうか、矢を射る音がはっきりと響いた。

「たぶん、最初から目指してなかった。ウサギと一緒」
「え?」
「父親に褒められたかったし、認めてもらいたかった。ピアノをする理由を、自分以外に作ってたから」

相良くんはゆっくりと窓のほうへ向き直り、桟に手をかける。