「面白かったー」
 
弾き終えて、相良くんよりも先にそう言って笑うと、横に座る相良くんが、またしたり顔でこちらを見ていた。

「さっきのエチュードもだったけど」
 
至近距離での視線の交錯に、意識していなかった太ももの接触に、まだ鍵盤に置かれたままだった私の薬指が、“レ”の音を発する。

「今のハノンも、ウサギじゃないと出せない音だったと思うよ」
「……表面的じゃなく?」
 
そう返すと、相良くんはふわりと笑った。

「根に持ってんね」
「おかげさまで」
 
話しながら細められる目。
次第に近付く唇に、私は咄嗟に肩をすくめて顎を引く。