どのみち、部活に入ったんだったら、もうここへは来ないだろう。
そのうちこの旧総合棟も壊されて、同学年という以外には接点はなくなる。

きっと、この気持ちも次第に色褪せて……。

「たそがれてんね」
「はっ?」
 
びっくりした。
入口を見ると、ドアの戸当たりに腕をかけた相良くんがいた。

彼への気持ちを自覚した途端の登場に、私は目を見開きながら、
「なっ……いつから……いつからそこにいたの?」
と尋ねる。

「エオリアンハープの冒頭から」
 
ショパンのエチュードのことだ。

私はひとり言もばっちりと聞かれていたことを悟り、
「立ち聞きして声かけないなんて、失礼……っていうか、悪趣味だ」
と早口で言った。