なんで?
 
答えは明快だった。
美月と話している彼を見て面白くなかったのも、ここに美月を入れたことに苛立ちを覚えたのも、怪我のことを内緒にされて悲しくなったのも、彼がここにこなくなったことに空虚感を覚えているのも。

「好きになってたんだなぁ……」
 
吐息のように口をついて出た言葉と一緒に、エチュードを弾き終えた。
私は、ぼんやりと止まった指先を見て、だからといってどうしようもない現状に自分を嘲笑する。

『あっちに残してきた女の子から』
『久世さん、彰浩のこと心配してたよ』

「ハハ……」
 
重い気分を振り切るように、私は立ち上がって窓の桟に手をかけて外を見る。
少しだけ開けていた窓を全部開いて、深い深呼吸をした。
弓道部員たちが、道具の手入れをしているのが見える。