「人生のすべてが成功だけでできてるわけじゃないでしょ? お父さんだって大なり小なり挫折してきたはずよ? 失敗する免疫をつけるのも、成長の大事なプロセスだわ。社会に出る前に、その貴重な経験を乗り越えたり、結果のとらえ方を熟考したり、そうやって頑張ってる理穂ちゃんを、これ以上否定しないでちょうだい」
 
表情は変えないままで、そうぴしゃりと言い切ったお母さんに、お父さんは箸ですくっていたご飯をお茶碗に落とした。

「……あ……あぁ」
と言って、それ以上なにも言わなくなる。

そんなお父さんを確認した後で、お母さんは、
「そういえばね、理穂ちゃん。今日、ピアノの先生が近くに来たついでに家に寄ってくださってね、ケーキ貰ったの。理穂ちゃんの好きなモンブラン。食後にみんなで食べましょ」
と言って、ふふふ、と微笑んだ。

「そうそう、先生の顔を久しぶりに見たら、思い出しちゃったわ。理穂ちゃんが初めてピアノ教室の体験に行った時のこと」
「え?」