「……弾いていいですか?」
「ご自由に」
 
バッグを横に下ろし、椅子に腰かけた私は、ちょっと逆立ってしまった気持ちを落ち着かせるように、ショパンのエチュードを弾きはじめる。

すると、彼はソファーの背に体を預け、スマホでゲームを始めた。
 
あ…………。
 
音を奏でながら、前回とは比べものにならない弾き心地のよさを感じ、いったん指を止める。

「…………」
 
そして、再度冒頭から弾き直して、その理由はなにかを探り始めた。
 
鍵盤が心なしか軽い。
ペダルも軋んだ感じがないし、なんだろう、音色もなんだか伸びがあって……。