でも、それでもどうにかついていきたくて、彼と同じ音楽で同じ世界を感じたくて、必死についていく。
 
遅れても、早すぎても、荒くても、無様でも、必死に……。
 

次第にスローになっていき、最後の音が昇華するように旧音楽室の空気に溶けていく。

弾き終えた私は、しばらく呆然としていた。
 
わかっていた。わかっていたはずだったけれど、こうして彼の実力を目のあたりにして、そして今まで見てきた彼の左手との雲泥の差を確認し、どう説明したらわからないような感情で言葉が出てこない。

「文化祭の時の話で、調べたの? 俺のこと」
 
私が無言で頭を振ると、
「試しただけ?」
と鼻で笑われる。