なにも言わない相良くんの足音が近付き、横に来たかと思ったら、思い切りドカッと座る。
いつもの横柄な態度だけれど……。

「なに?」
 
横顔は無表情で、まとう雰囲気も今までとまるで違うような気がした。
こころなしかその顔が凛として見えて、私の心臓は小さく跳ねた音を発する。
自分で呼んでおきながら、正直ビビっている。

「私が左手パートを弾くから、相良くん、右手で弾いて」
「……なんの曲?」
「ラヴェルのソナチネ……」
 
私は以前ピアノの先生に練習してみる? と言われたけれど、その時は難しくて断念した曲を挙げた。

すると、相良くんは、右手の指を鍵盤に添えて、足をペダルに置く。
また私の足にあたって、そこで初めて、よく足があたっていたのは彼の体にピアノが染みついていたからだと知る。