「なんで……美月を入れたの? ここに」
 
そんなことを言いたかったわけじゃなかった。
それなのに、私の口は勝手にそう言っていた。

「なにが?」
「看板作りの時に、ここに上げたの、相良くんなんでしょ?」
「上げてないよ。何人かが懐かしんで二階まで上がったってだけでしょ。てか、なんでそんなに突っかかってんの?」

膝の上の握りこぶしが固くなる。
そんなふうに平然と言われることが、なぜか無性に気に入らない。

「言ったじゃん、私。ここのこと知られたくないって」
「あぁ、頑張ってるって思われたくないから、だったっけ? でも、今ピアノしてないじゃん、ウサギ」
「違う」
「じゃあ、俺と一緒にいて誤解されたくないから?」
「ちが……」