「ごめんなさい」
 
素直に謝って事情を説明すると、
「いいよ。まだやってないし、調律」
と言って体を起こす彼。頭を掻いた後で腕を伸ばし、片目を瞑りながら大きな欠伸をした。

もしかしたら最後の授業をサボって、ここで寝ていたんじゃないだろうかという疑念すら生まれる。
 
私は「そうなんだ」と呟いてピアノの前まで行き、鍵盤蓋を開いた。

そして、たしかこことここと……と思いながら、その音を鳴らしてみる。

「…………」
 
やはりわからないけれど、調律していないということは、まだズレたままなのだろう。