どうしよう。やっぱり、まだ弾きたくない。

「先生」
 
時間稼ぎにもならないとわかっていて、私は、
「あのDVDの中に……すごく上手な中学生、いましたよね」
と話しかける。

「え?」
 
ピアノ椅子の後ろにパイプ椅子を寄せて座ったばかりの先生は、ちょっと考えた後で、
「あぁ、えっと……なんていったっけ、……アキ……なんとかアキヒロくん?」
と手を合わせて表情を明るくした。

「そうです、その人」
「あの子のよさ、やっぱり理穂ちゃんにはわかるのね。本当にすごいわよね、あの正確さの奥から溢れ出すようなオリジナリティというかパッションというか」