私は平静を装って、体を曲げて単語帳へと手を伸ばす。
けれど、それより先に、相良くんに拾われてしまった。

「overcome」
 
そう言われて、
「……克服する」
と、ぼそりと答える。

「ハハッ」
 
相良くんが思わずくしゃっと笑って、私は、
「返して」
と手を出した。

「えらいね、休み時間にまで勉強して」
「どうも」
 
そっけなく返して、彼の手の中の単語帳に手を伸ばすも、相良くんはその手をふいっと上げる。

「冗談しないでよ。返して」
「ちゃんと話、してくれたら返すよ」
「する必要ない」
 
私はそう言って彼の腕を引き、手の中から単語帳を無理やり取った。