出発の合図が響き、見慣れた風景が窓の外で移り変わっていくのを眺めながら、私はバッグの上でピアノを弾くように指を動かした。

今夜は塾の課題のおさらいをして、明日講師の先生に質問することをまとめておこう。
土日はだいたい隣の奥さんは赤ちゃんと一緒に実家に帰るとのことだったから、明日は車の有無を確かめてからピアノの練習も。
 
そんなことを考えていると、窓の外の建物の高さが次第に低くなっていき、私の住む田舎の町へと近付いてきた。

トンネルを抜けると田園や山が広がり、ところどころで外灯が灯り始めている。
遠く小高い山の上の方に家らしきものが見え、うっすらと明かりがついているのが確認できた。

『ここ、ホント田舎だよね。俺んちが山の上だってこともあるけど、授業終わってから1時間も待たなきゃいけないなんて』
 
私はぼんやりと、昨日の男の子のことを思い出していた。