「はい、今日はここまで。家で練習しておいてね」
「はい」
 
益川(ますかわ)先生から特に問題ないと言われてピアノ教室から出た私は、いつものように駅に向かって歩き出した。

益川先生とは小さいころから指導してもらっているピアノの先生で、40代くらいの女の人だ。
穏やかで、褒め上手で、あまり厳しく指導された記憶はない。

ピアノ教室は学校と家との間にある駅から電車に乗り、20分ほどしたら着く駅の近くにある。
水曜日の英会話教室と、明日土曜日の個別指導塾もこの辺なので、学校へは徒歩通学なものの、週に3回は電車に乗って移動する。


駅の改札を抜け、電車に乗った私は、ロングシートの端に腰を下ろした。

夕方だけれども、田舎のほうへと向かう電車の中は閑散としていて、夕方から夜にかけての薄暗さと控えめな照明が尚更それを際立たせている。