「……っ」
 
急に、とてつもなく恥ずかしくなった。
そして同時に、怒りが沸き上がる。
 
バカみたいだ。
こんな……こんなに天才的に上手な人を前に、私はなんてバカだったんだろう。

どうして彼は、私を騙していたんだ。
バスの時間が来るまでのいい暇潰しで、私をからかって遊んでいただけ? 
それならひどい。ひどすぎる。

「……ハ……」
 
あまりにも衝撃的で、いつの間にかあとずさりしていた私は、膝の裏がソファーにあたったことでペタンと腰を落とした。
額を押さえ、再度冒頭から彼の演奏を聴き返す。