地に足がついていなくて、どこかフワフワしている気分。
帰り際に相良くんと話したことだけは、やたらとリアルに思い出せるのだけれど、それ以外は靄がかかっているかのような一日だった。
 
ふと、テレビ台の一段目のDVDデッキに目が行った。
そういえば先週、お母さんが見ていたんだったな、益川先生にもらったDVD……。
 
ピアノ、しかもショパンから意識的に気を逸らしていた私は、テレビ番組でも見ようと、リモコンに手を伸ばした。
テーブルの端に並べられたリモコンに精一杯手を伸ばすも、横たわったまま横着しようとしたからか、テレビのリモコンだけがラグの上に落ちてしまった。
 
私はそれを拾うことすら億劫で、テーブルの上に残されたDVDデッキのリモコンを見つめる。

べつに、見たくはない。
そう思ったけれど、なんだか“見ろ”と言われているような気になって、私は鼻から息を吐きながらそのリモコンを手に取った。