「おかえりなさい。今日はピアノじゃなかったの?」
「ちょっと頭が痛くて、休みますって連絡入れといた」
「あら、大丈夫なの? 理穂ちゃん」
家に帰ると、リビングのソファーでテレビを見ていたお母さんが立ち上がって歩み寄り、私の額に手をあてて覗き込んできた。
仮病を使って休むのはたぶん初めてなのに、なぜかスラスラと嘘が口をついて出てきた。
「大丈夫だと思うけど、部屋で横になる」
「それがいいわね。ご飯の準備ができたら呼ぶから」
お母さんが見ていたテレビからは、ピアノの音がしている。
もう耳にタコができるくらいに聴いたし弾いてきた、ショパンのエチュード25の1だ。