ちょうど、相良くんが色をはみ出したところで、ガヤガヤと騒がしくなり、笑い声が響いた。
美月も彼に近寄って笑い合っている。

「……なんだ」
 
そうか。そうだよね。
 
誰にも気付かれなかった私は踵を返し、廊下を今来たほうへと歩き出す。
 
文化祭前なんだから、そちらを優先するのはあたり前だ。
それに、二階からピアノの音が響けば、みんな不審に思うかもしれない。

なにより、コンクールは終わったんだし、相良くんも来ないとなると、行く意味がない。
 
外へ出た私は、校門へとまっすぐ向かった。
ピアノ教室へも行かなかった。弾く気には、どうしてもなれなかった。