夏休みの間の補修工事で外観がキレイになった校舎と、新しく建てられた総合棟は、新学期の私たちのテンションを上げるには十分だった。
裏には山があって、少し歩くと田園風景が広がるこの場所も、たったそれだけで心を舞い上がらせる。

「やったね、ようやくエアコンついたよ、教室に」
「7月とかサウナだったもんね」
「できればもっとガンガンに冷やしてほしいけど」
 
そんな声が周りで聞こえる中、美月(みつき)が、
「あーあ、前髪短くしすぎちゃった」
と言って、私の席に両手をかけながら座りこむ。

「似合ってるって」
 
彼女の隣に立つ彩佳(あやか)が微笑みながら肩を叩き、その反対隣にいる尚美(なおみ)が、
「アンタより短い私はどうなんのよ。髪を失敗したくらいで死ぬわけじゃないんだから」
と言って拳をポスンと頭に落とす。

「理穂(りほ)ちゃん、ホントのこと言って。おかしくない? 私」
 
ふたりの言葉に納得がいかないらしい美月は、正面の私を見上げる。
このクラス、いやこの学年でおそらく一番可愛いだろう人形みたいな顔が、眉を垂らして子犬みたいな表情を向けてくる。

「美月はどんな髪型でも可愛いよ」
 
私がそう返すと、彼女は「へへ。ありがと」と言って笑った。

「宇崎(うざき)さん、先生が呼んでるから、行こう」
 
横から割って入ってきたのは、園宮(そのみや)くんだ。
彼が委員長で私が副委員長だから、配布物を運んだり課題提出物を集めたりと、先生の手伝いを任されることが少なくない。

私は、「行ってくるね」と言って席を立ち、美月と彩佳と尚美に手を上げた。
3人とも1年のときから引き続き同じクラスなった者同士で集まったグループだけれど、1学期から楽しく付き合えている。