ヒヒ、と悪い笑い方をした相良くんは、体を私にあててきた。
隣同士でぴったりくっつくと、彼の肩が私の横の髪に触れる。

そういえば、結んでなかったなと思って、腕にかけていた髪ゴムでひとつにまとめた。

「伸びたね、髪」
「人間だからね」
「ウサギの尻尾が成長してる」
 
相良くんが私の括った髪の先を、人差し指で何度も弾く。
こちらを向いている彼の笑った吐息が、頭頂部をかすめた。

「どーも」
 
そう返しながら、なんだかくすぐったい気持ちになった私は、ピアノ椅子に戻った。

「逃げた」
 
こちら向きで両手を窓の桟にかけ、葉が落ちて寂しくなった梢の隙間からの日の光を背に、相良くんはクスクスと肩を揺らす。

半分開けた窓からは、秋の空気が入ってきた。乾いた涼しい風が彼の髪を撫で、私の頬をかすめる。