「あらあら、お父さん、気が早いですよ。ねぇ、理穂ちゃん」
「うん」
 
べつにいいけど、と思いながらも、私はそう相槌を打ってコロッケを口に頬張った。

「でも、頑張ってね。課題曲はショパンの……」
 
咀嚼した後でお茶を飲んだ私は、「エチュード、25の1」と答える。

「そうだったわね。うふふ、楽しみだわ」
 
お母さんはそう言って、にっこりと微笑んだ顔を傾けた。

ピアノの調律のこと、それを指摘した彼のことを思い出したけれど、私はあえてその話はしなかった。
お父さんとお母さんが気にすることを、下手に増やしたくなかったからだ。