お母さんはニコニコ笑っている。
昨日も、その前もそうだった。
気を使って、他の話題で盛り上げようとしてくれているのだ。
　
でも、私にはそれが、なんとなく不自然で居心地が悪かった。
傷口に触れられたくはないのに、逆にまったく触れられないのもいやで、じゃあどうしてほしいのかと自問自答してみても、結局自分でもわからなかった。

『コンクールがダメだったとか？』
　
ふと、放課後の旧音楽室での相良くんの言葉がよみがえった。
あの、気遣いとは無縁の言動と、私の気持ちなんてお構いなしのピアノの催促。

『弾けたっ！』

「ふ……」
　
ちょっとだけ思い出し笑いをしてしまい、きょとんとしたお母さんの「どうしたの？」という声に、「なんでもない」と返してスプーンを動かした。