「今日はお父さん、遅くなるみたいだから、先にふたりでご飯食べようか」
家に帰ると、夕飯の準備をしていたお母さんがそう言ってきた。
自分の部屋に直行しようとしていた私は、少しだけホッとして「うん」と返事をする。
食事の準備が済み、テーブルに向かい合わせで座った私たちは「いただきます」と手を合わせ、お母さんはサラダを、私はビーフシチューを口に運ぶ。
「そういえば、そろそろ文化祭ね」
「うん、あと十日くらい」
「理穂ちゃんは副委員長さんだから、大変なんじゃない?」
「文化祭は実行委員がいるから、とくに忙しくはないよ」
「あら、そうなの」
お母さんは、先週末のコンクールの話題は出さない。
それは、成績に関しても同じだった。
おそらくお父さんから伝わっているだろうに、あえて聞いてこないのだ。
「理穂ちゃんのクラスはなにするの?」
「展示だよ。バルーンアートの」
「そうなのね、素敵。ふふ、楽しみね」