「血色戻ってきた」
「は?」
「ソファーで寝てた時、死んだような顔してたから」
 
つかまれた手首が静かに下ろされ、横同士上半身だけで向かい合ったまま、彼がふわりと微笑む。
 
そういえば、悩んでいた。
いや……今でも、なにも解決しないままだ。

それなのに、私はそのことをこの数分間まったく考えなかったし、重い気分もどこかへ行っていた。

「ねぇ、ウサギ」
「これからも一緒に弾く練習してよ。月火木」
 
頼んでいる側だというのに拒否を許さないような得意顔で、彼は顔と顔との距離を詰める。
私は、彼に握られたままだった両手をパッとほどいて体を反らし、
「わ、わかったから」
と返した。

相良くんは、「サンキュー」と言って私の反らした半身を追って指を伸ばし、鼻を軽くつまんだ。
そして、またさっきと同じようなかけ合いを繰り返したのち、旧音楽室を出ていった。