でも、曲が終わった途端に、その顔はパッとこちらへと向き、
「弾けたっ!」
と、まるで小学生男子の顔になる。
 
私は、
「あ……あぁ、うん。すごい」
と頷き、そう言った後で、最後まで完全に音を頭に入れていた相良くんのすごさに、改めて驚いた。

片手でゆっくりと主旋律を弾いただけとはいえ、ここまで丁寧で完璧に弾ききるとは思わなかった。

「ホントに……すごい……って、わっ」
 
また相良くんに抱きつかれて、私は前回とは違った心臓の跳ね方に面食らう。

「ちょっとっ、だから、セクハラだってば」
「わりーわりー。つい、嬉しくて」
「嬉しかったら誰にでも抱きつくわけ?」
「感情は素直に外に出したほうがいいだろ」
「捕まるわよ」
 
呆れてそう言うと、相良くんは「クソ真面目」と言って、私の眉間を親指で押す。
結局ちょっとした取っ組み合いのようになって、叩こうとしたら笑いながら両手首を握られた。