あ……今、ちゃんと重なった……音。
 
相良くんが奏でる主旋律と、私が奏でる和音。
ふたりの指のリズムがしっかりと合わさり、まるでひとりで弾いているかのような錯覚がする。

単純で単調な音の流れが音楽室の様相まで変え、一気に趣のある空間になった気さえした。
 
なんだろう。
上等なソファーに深く腰かけて、ゆっくりと息を吐いているみたいだ。
心地いい……。
 
そう思って目を閉じかけた時、彼の左腕が私の右肩に触れた。
音楽を止めたくなくて、私はそのまま続ける。

そっと、彼の横顔を盗み見ると、懸命な顔をしているだろうと踏んでいたその顔は、この音楽さながら穏やかな表情をしていて、視線は鍵盤へと優しく落とされていた。