「ウサギは? 泣いてたの?」
「泣いてない、まだ」
「まだ、とか」
 
ハハッと笑った彼の目尻が、くしゃっとなった。
十日ほど前の衝突なんて、まるでなかったかのようだ。

「あれか、タイミング的にコンクールがダメだったとか?」
いきなり核心を突いてくる相良くん。

私が遠い目をしたままでなにも返さずにいると、
「俺が邪魔してもしなくても一緒だったんじゃん」
と頭の後ろで手を組みながら続けて、ソファーの背に体を預けた。
 
彼は、デリカシーという言葉を知っているのだろうか。

悔しくなって、
「相良くんにはわからないよ」
と悪態をつく。

「へぇ。そんでまた、こんな挫折した私かわいそうでしょ? って続けるの?」
「そんなこと言ってない」
「同じことじゃん」