ポーン……と、旧音楽室のピアノの鍵盤のドの音を立てる。
11月になってからは、少ししか窓を開けなくなったから、音が前よりも大きく部屋に反響する。
 
私は到底弾く気にはなれず、そのまま蓋を閉めて、椅子に座ろうとした。
 
そうだ、相良くんはもう来ないんだから、ソファーに座ってもいいだろう。
私はいったん下ろしたバッグをまた持ってソファーに腰かけ直し、彼がやっていたようにバッグを枕にして控えめに横に倒れてみた。

「……ふぅ」
 
なぜだろうか、今はここが自分の部屋よりも落ち着く。
今日だって、コンクールが終わったんだから来る必要はないというのに、家にすぐ帰りたくなくてここへ来た。
気を使うお母さんと、相変わらずそっけないままのお父さんのいる家に……。
 
考えてまた気が重くなり、私は無理やり目を閉じる。
そうしたところで、自問自答を繰り返すのは止められないのに。