出だしは好調だった。
周りのみんなが言うように、ちゃんと“いつもどおり”ができている。
右手、左手、それぞれの五本の指が、柔らかく波打つように自然と動き、濁りのない音が出せている。
 
そうだ、お父さんやお母さんや先生が言うように、いつものように、正しく、正確に、間違えないように……。
 
ふと、いくつかの言葉が頭によみがえった。

『すごいね。勉強もピアノも』
『理穂ちゃんなら大丈夫よ』
『高校入ってから、五位以下になったことないっしょ?』
『さすが模範生徒だね』
 
だから、なんで今、思い出すの?
 
余計なことを考えている場面ではない。
そう思えば思うほど、脳内に響くいろんな人たちの声。