「理穂子は、お父さんの自慢の娘だ」
 
最後に、お父さんが口癖のように言う言葉。

「ひとり娘だし、とても大事なんだ。だから、お父さんとお母さんをがっかりさせるようなことはしないでおくれよ」
 
お父さんは、終始怒らなかった。
私の目を覗き込みながら、まるで小さい子にしっかり言い聞かせるように言った。

自分のためのことだ、と言ったお父さんの口が、次の瞬間には、がっかりさせないでくれ、と言う。
 
私は結局どっちなんだろうか、と思いながら「はい……」と返事をした。
自分が発した声は、なんだか違う誰かのもののような気がした。