「ハハッ。贅沢な二択」
 
尚美が噴き出し、彩佳が「ホントだ」と笑う。

「えー……うーんと、じゃあ、早い者勝ちで」
 
人差し指を立てて頬にくっつけた美月は、明らかなぶりっ子だった。
でも、これが彼女のデフォルトで、みんなこのキャラと可愛さを認めて受け入れているから、問題ない。
問題ないのだけれど……。

「いい度胸してるな、美月」
 
尚美から首に腕を回され、美月は「アハハハ、痛いってば、尚ちゃん」と目を瞑りながら笑う。

いつもの光景だ。それなのに……。
 
私はちらりと、席がだいぶ離れている園宮くんの背中を見た。
彼は読書中だし、こちらの声は聞こえていない距離だ。

美月がこんないい加減なこと言ってるよ、って教えてあげたいような気持ちになって、私はそう思った自分に心の中で嘆息した。