彼は、そんなことを考えて黙りこんでしまった私を数秒間じっと見つめた後で、盛大なため息をつく。

「じーちゃん死んだけど、道具ならあるよ」
「え?」
「見様見真似でやったことはあるけど、保証はできない。それでもいいなら」
「あ…………」
 
私は思わず頬が緩み、このピアノは古くて学校側が貰い手を探し中で、いなければ廃棄予定だと先生に聞いたことを説明する。
だからといって勝手にいじってもいいということにはならないのだろうけれど、調律なら構わないだろう。

「わかった。じゃあ、明日」
「あ」
 
時間ギリギリだからだろう、彼はそう言うとすぐに音楽室を出ていった。

明日金曜日はピアノ教室の日だから来れないと言おうと廊下を覗いたけれど、すでに彼の姿はなかった。