「理穂ちゃん、ねぇ、見て見て。このリップさ、プチプラだったのに色づきが超よくて。ね、ね、どう? 可愛い?」
翌日の休み時間、いつものように私の席に来た美月が、満面の笑みで声をかけてくる。
いつものことだ。いつものことなのに、
「うん。可愛い」
というひと言を発するのに、えらく時間がかかった。
「まーた、美月は、理穂子が可愛いって言ってくれるの知ってて聞くんだから」
尚美が美月の背後からやってきて、空いていた私の隣の椅子に座り、呆れ顔で頬杖をつく。
「“可愛い”ってね、魔法の言葉なんだよ。言われれば言われるほど本当に可愛くなるんだから」
「てか、それ、男限定っしょ?」
「彼氏がいないから理穂ちゃんに言ってもらってるの」