「ピアノ、習ってるんですか?」
 
ちょっとした高揚感があった。
だって、私の周りではピアノをしている人は少なく、ピアノ教室も個人レッスンということもあって、近くにピアノ仲間がいないからだ。
だから、もしかしたらと、ちょっとした親近感を持ってしまう。

「習ってないよ。じーちゃんが調律師だったってのと、耳が異常にいいってだけ」
「え…………あ……そうですか」
 
拍子抜けしてしまった。
なんだ、ピアノをやってるわけではないのか。

「音、わからないんでしょ? 気にならないなら、そのままで弾けば?」
「……まぁ……」
 
なんだろうか。
ものすごく、負けたような気がするのは。

「でも、指摘されると気になります。ちゃんと音が合ってないなんて、気持ち悪いというか」
 
わかっている。
調律師を呼ぶのはただじゃないし、こんなもう廃棄か譲渡寸前の古いピアノなんて、調律する価値があるのかどうか。

今はただ、私が練習に使っているだけの期間限定のものだし……。