一瞬、空耳かと思った。
入口とは反対側を見ていた私は、再度「宇崎さん」と呼ばれたことで、パッと体を起こして声がしたほうを向く。

「大丈夫?」
 
園宮くんだった。
部活の練習着の園宮くんが、まるで場違いな旧音楽室に入ってきた。

「どうしたの? 園宮くん」
「今日は弓道部は休みの日なんだけど、ひとりで練習しようと思って弓道場に来たら、ピアノが聞こえたから。息抜きを兼ねて宇崎さんのピアノを直で聞いてみようかと思って」
「え?」
「それで、上がってきた」
 
園宮くんらしくなくて、というか、園宮くんがここにいることに驚くほどの違和感を覚えてしまい、私は無駄に姿勢を正す。