「あ……ハハ。そうなんですね。それじゃ……」
 
私は先生に会釈をして、今度こそ外へ出た。
すると、階段を下りる途中で、中学校の制服の背の低い女の子とすれ違う。

すれ違ってから気付いた。
たぶん、あの子だ。
今日はいつもより遅かったから、偶然一緒になったんだ。

普通の女の子だった。
ちょっと控えめな、地味で真面目そうな女の子。

でも……。
 
目がキラキラしていた。
まるで、待ちに待ったピアノレッスンに行くんだ、とでもいうような……。
 
私は、なんだかよくわからなくなってきた。
自分で自分に自信が持てていたものが、足もとから少しずつ少しずつ、砂になってこぼれていくような錯覚がした。