「うん。この調子でいいんじゃないかしら。いよいよ来週末は本番ね。頑張りましょう」
翌日はピアノ教室だった。
まったく上手に弾けた気はしなかったのに、益川先生はにっこりと笑って握手を求めてくる。
「あの、安定してない気がするんですけど」
「そうかしら? 理穂ちゃんのよさは正確さだから、コンクール向きだし、大丈夫。あとはイメージトレーニングすることと、手の怪我に気をつけることくらいよ」
「……はい」
返事をしながら、玄関へと一緒に向かう。
廊下を歩きながら、棚に飾られている造花や壁にかけられた絵画が、なんだかいつになく陳腐なものに見えた。
「あ、そうそう、過去のコンクールの動画データをピアノ講師仲間で共有してるんだけど、同じショパンのエチュードが課題曲になった時のものがあったから、DVDに焼いてたの。イメトレに役立つんじゃないかと思って。はい」