バッグを肩にかけながら私の言葉を遮った彼は、まっすぐ立って私の目を射るように見る。
背景の窓の外の緑が、大きな風でザアッと揺れた。
太陽が雲に隠れたのか、室内が一瞬で薄暗くなる。

「どうありたいの?」
「え?」
 
どう……って……。
そんなこと急に言われても困る。

でも、現状維持、もしくはそれ以上を目指すのはあたり前じゃないか。
だから、えっと……よりよい自分でありたいってことで……。
 
そんなことを頭の中でぐるぐる考えていたら、相良くんはもうすでにツカツカとドアのほうへと向かっていた。

「じゃーね」
 
私はなにも言えないままで、相良くんの姿が磨りガラスの向こうへ消えていくのを見送った。

心の中の霧は一層深まったような気がした。