「どーしたよ、その音」
 
翌日は木曜日だった。
放課後、相良くんとあまり話したくなくて、挨拶だけしてピアノを弾き始めた私に、彼はそう聞いてきた。

「途中だから、邪魔しないでよ」
「昨日も顔色悪かったし、調子よくないんだったら帰って寝れば? てか、俺なら休むわ」
「ほっといてって」
 
こんなふうに感情的になってしまう自分もいやで、無理やり演奏を再開させるも、まるでハープのようだと言われているショパンのエチュード25の1が、品性を欠いた乱暴な響きになってしまう。

「あのさ」
 
ダンッと、ピアノ椅子に割り込んで座ってきた相良くん。

「むしゃくしゃしてるんなら、違う曲にしなよ。それこそベートーベンの運命とかショパンの革命のエチュードとか」