違う。
ピアノばかりしていたわけじゃないし、ちゃんと勉強もしていた。
それなのに……。

「お。ウサ……理穂ちゃん」
 
松野先生が「頑張ってね」と言って去っていった時、三組からちょうど廊下に出てきた相良くんが、こちらに手を上げて近付いてきた。
廊下で話したり移動したりしている生徒の間を縫って、彼は私の目の前まで来る。

「なに? その顔」
 
俯いた私の顔を覗き込みながら、茶化すように笑う彼は、なにも言わない私に、
「え? もしかしてマジで気分悪い? 保健室行く?」
と言って、もっと身を屈めて覗き込んでくる。

「いい」
 
私は、額に手をあてようとした相良くんを振り払って、トイレへと向かった。
「おい」と背中で彼の声を聞いたけれど、私は振り返らなかった。