「……やっぱいいや」
 
体を捻って振り返った姿勢のままの私と、ソファーに寝転がってやっぱりスマホから視線を外さない彼。

そのまま無言になられたから、
「気になるんですけど、なんですか?」
と聞いてみる。

「ずれてる音がいくつかある」
「は?」
 
予想外の言葉に、私は間の抜けた声を出してしまった。
“ずれてる”? 私の音が? まさか。

「ピアノの調律がおかしい」
「調律?」
 
そんなはずはない。
だって、私は弾いていておかしいとは思わなかった。

「どの音ですか?」
「…………」
 
そこでようやくスマホを持った手をパタンとお腹に下ろした彼は、枕のバックに髪が擦れる音を出しながらこちらを見た。

そして、心底面倒くさそうに、
「気にならないんだったらいいよ」
と言った。