「疲れてる?」
「かも」
 
そう返して、「もう一回」と催促した相良くん。
今度は気持ち遅めにして弾いてみたけれど、やはりたどたどしさは顕著だった。

「あーーーっ!」
 
二回目を弾き終えた相良くんは、悔しさを滲ませた声を上げながら、反対方向へ向けた横顔を頭ごと鍵盤の上に倒した。

勢いよくはなかったものの、いくつもの音が重なって響き、先細りになって消えていく。
そしてまた、微かな雨音だけが旧音楽室を包んだ。
 
こんなふうになるのを見るのは初めてだ。
声をかけるのがはばかれるようなオーラを出しているような気がして、私はしばらくそっぽを向いたままの相良くんの後頭部を見つめる。