「うん。コンクールまであと一ヶ月切ったし、ちょっとでもブランク空けたら台無しになりそうで。それに、テスト勉強は帰ってからちゃんとするから」
「相変わらずの真面目っぷり」
「ありがとう」
 
私は淡々とその言葉を受け取り、「それじゃ、次、相良くんの番」と言って、彼の座るスペースを空けた。

いつものように彼は左手、私は右手でハノンを合わせる。
少しずつ少しずつリズムを上げてきた音楽を、前回と同じくらいの速度で始める。
 
……あれ?
 
気のせいだろうか。
今日はやたらと相良くんのミスが多い気がする。
指が上手く繰り出せていない感じで、もたついているというか……。