スマホを確認しながらソファーから立った相良くんは、私よりも先にピアノ椅子にひょいっと座る。

「いいけどさぁ」
 
私はなんだか小学生の教え子をもったような気持ちで、「はいはい」と言って隣に座り、ハノンを一緒に弾いた。

音が階段を規則正しくのぼっては下りるこの曲をふたりで合わせていると、なんだかんだでやっぱり楽しい。

息を合わせて繰り出す指は、まるでリズムに合わせて踊っているようで、どんどんテンションが上がっていく。

そんな私に気付いたのか、もしくは自分が楽しいだけなのか、相良くんが「ハハッ」と小さく笑った。